1 土地家屋調査士制度の誕生
土地家屋調査士法(昭和 25 年 7 月 31 日法律第 228 号)制定に至る沿革は、以下のとおりである。土地家屋調査士制度については、日調連が発行する周年記念誌や会史及び藤原政弥氏の著書「日本を測る人びと」(武蔵野書房)等にも、その経緯資料や当時の有力尽力者の方の気概が詳細に記載されているが、本誌では、その概要を記すものである。
胎動期の概要
徳川幕府の大政奉還によって成立した明治政府は、我が国において初めて国民に土地の所有権を認め、地租、家屋税は国政運営の重要な財源となった。後に、政府は全国各地の税務署に土地調査員を配置したが、徴税の公正を期するために必要な全国の土地を一律正確に調査、測量するまでには至らなかった。
昭和の初頭、一説には大正時代からといわれているが、名古屋税務監督局管内の各税務署においては、特に地租、家屋税に関して申告制度ではあっても、無申告による脱税に厳重な対策を講じており、市町村を通じて土地建物の所有者に申告を促す必要があった。
また、申告がなされても専門家の手を経ないものは不備が多く、未処理事件が山積することとなる事情から、名古屋局管内の 6 県には市町村長の推薦により、各税務署長から嘱託を受けた土地調査員という職が置かれて、土地建物の調査、測量、申告手続等を行っていた。
そのような中、昭和 2 年、信州松本税務署において法制定運動の機運が高まった。
時の署長の植木庚子郎氏(後の法務大臣)は、昭和 3 年、当時管内に散在していた約 240 名の土地調査員(内 2 割は市町村吏員)に結集を呼び掛け、土地調査員に国家資格を与えることによる業界の刷新を提唱した。それに共鳴した中島 實、赤羽多知雄両氏は同運動の基盤とするため、昭和 4 年、官民協力して同署管内に松本土地調査員会を結成し、また拡張して県内の調査員会をまとめ、昭和 13 年に連合会的な長野県土地調査員会を創設して、他府県に協力連携を呼び掛けた。
しかし、他府県には調査員の組織が不完全であったため、了解を得て爾後、国会請願の全国運動は長野県が主体となって行うこととなり、同運動の正副会長に中島 實、赤羽多知雄両氏を選任し、昭和 16 年、従来の嘱託員制度を免許制度に改正することの請願書を初めて国会に提出し、その後、数度にわたる請願運動を展開した。
昭和 20 年に至り、戦後日本はアメリカ軍による軍政によって支配され、激変した国会情勢に対処して運動方針も大転換し、昭和 24 年、従来の政府提案方式を改めて、アメリカ流の議員立法方式に切り替え、八方努力した結果、法案は昭和 25 年 7 月臨時国会及び GHQ を無事通過したのである。
土地整理士法制定運動
〔第 1 回請願〕
昭和 16 年 2 月 17 日 衆議院に請願提出(赤羽多知雄 外 313 名)
同 2 月 22 日 請願文書表第 382 号で受理
同 2 月 25 日 採択可決決定
法文作成に至らず。
〔第 2 回請願〕
昭和 17 年 1 月 30 日 衆議院に請願提出(赤羽多知雄 外 371 名)
同 2 月 6 日 請願文書表第 45 号で受理
同 2 月 25 日 衆議院採択可決決定(3 月 3 日、貴族院に送付)
同 3 月 12 日 貴族院採択可決決定
法文作成に至らず。
〔第 3 回請願〕
昭和 18 年 3 月 23 日、第 81 議会の衆議院建議委員会に小野秀一議員から建議
建議文書(第 25 号)要旨「去る第 78 議会及び第 79 議会で通過しているにもかかわらず未だに法文化されないのは不当であるから速やかに本法の制定を要望する。」
満場一致可決されるも、太平洋戦争苛烈化に伴い終戦まで運動も一時中止となる。
戦後の土地家屋調査士法制定運動
昭和 21 年
松本土地調査員会長の中島實先生から、東京に近い諏訪の会長の林義成先生に運動の先達が引き継がれる。(長野県から全国的運動への転換)
昭和 22 年
「土地家屋整理士法制定に関する請願」
長野県土地家屋調査員 林義成 外 419 名
※ 家屋税の関係から、ここで初めて「家屋」という言葉が現れてくる。また、調査員では役所的であるとのことから、「土地家屋整理士」の名称にする予定のところ、当時使用していた「土地家屋調査員」の員4が士4となって、後に日の目を見ることとなる。
戦前同様に法案化されず、以後、請願運動は昭和 24 年に至る。
昭和 24 年
降旗徳弥先生(逓信大臣、後の連合会初代会長)を通じ議員提案に動く。
家令昌紀先生(日本測量士会長、後の連合会 2 代会長)らの協力を得る。
※ 測量士の登録資格規定を織り込んだ測量法(昭和 24 年 6 月 3 日法律第 188 号)は厳重で、一般の測量実務家の既得権は認められず、試験を受けなければ資格が得られないことから、その救済のための測量法一部改正と土地家屋調査士法成立を互いに協力して運動することとなった。
昭和 25 年 5 月
シャウプ勧告の税制改革による台帳制度改正の流れの後押しもあり、法案成立が期待されたが、国税を地方税へ移譲する法案が審議未了となったため、土地家屋調査士法も審議未了となる。(同時に提案されていた司法書士法は、地方税と関係がないため、5 月 22 日法律第197 号として制定、即日施行された。)
昭和 25 年 7 月 31 日
第 8 回臨時国会に税法改正案と共に再提出され、「土地家屋調査士法」制定公布となる。
2 土地家屋調査士制度の変遷
以下は、土地家屋調査士制度のこれまでの変遷の概要です。
昭和25年 (1950) | ●7月31日、土地家屋調査士法制定(法律第228号) ●土地家屋調査士の資格(民事局長通達) ①選考により土地家屋調査士となる資格 ②法附則第2項該当者認否 |
昭和26年 (1951) | ●6月4日、土地家屋調査士法一部改正( 法律第195号)〔建築士法の一部を改正する法律附則3項による改正〕 ・資格(建築士)の追加 ●法附則第2条該当者の認否等単に台帳登録申告手続のみを業としていた者は法附則第2項に該当しない。(民事局長通達) |
昭和27年 (1952) | ●7月31日、土地家屋調査士法一部改正( 法律第268号)〔法務府設置法等の一部を改正する法律37条による改正〕 |
昭和29年 (1954) | ●土地家屋調査士試験合格証を紛失した場合は再交付できないが証明願があれば交付できる。(民事局長通達) |
昭和30年 (1955) | ●市町村官吏で土地家屋調査士業務を営もうとする者でない限り登録はできない。(民事局長通達) |
昭和31年 (1956) | ●3月22日、土地家屋調査士法一部改正〔第一次改正〕(法律第19号) ・強制会、強制加入、会則の大臣認可制度土地家屋調査士の法令・会則等の遵守(民事局長通達) |
昭和32年 (1957) | ●土地家屋調査士の年計報告書・事件簿の取扱い(民事局長通達) |
昭和34年 (1959) | ●弁護士は土地家屋調査士の業務に属する申請手続をすることができない。(民事局長通達) |
昭和35年 (1960) | ●3月31日、土地家屋調査士法一部改正〔不動産登記法の一部を改正する等の法律附則17条による改正〕(法律第14号) ●土地家屋調査士の登録資格 土地家屋調査士法附則第3項により調査士となる資格を有する者は昭和35年9月30日までに登録を受けない限り登録資格を喪失する。(民事局長通達) |
昭和36年 (1961) | ●5月13日、土地家屋調査士法制定10周年記念式典(静岡県熱海市富士屋ホテル) |
昭和38年 (1963) | ●法務局長の監督権限 地方法務局長からの土地家屋調査士の懲戒処分の内議は、法務局長が認可又は承認する。(民事局長通達) |
昭和40年 (1965) | ●3月31日、琉球土地家屋調査士会の加入(沖縄本土復帰を前提として加入) |
昭和41年 (1966) | ●5月16日、土地家屋調査士法制定15周年記念式典(静岡県熱海市ニューフジヤホテル) ●6月30日、土地家屋調査士法一部改正(法律第98号)〔審議会等の整理に関する法律6条による改正〕 ● 審議会等の整理に関する法律制定 ● 法務省に土地家屋調査士試験委員を置く。 |
昭和42年 (1967) | ●6月12日、土地家屋調査士法一部改正(法律第36号)〔登録免許税法の施行に伴う関係法令の整備等に関する法律10条による改正〕 ●7月18日、土地家屋調査士法一部改正(法律第66号)〔司法書士法及び土地家屋調査士法の一部を改正する法律2条による改正〕 ● 土地家屋調査士会及び連合会に法人格付与 ●「 全国土地家屋調査士会連合会」を「日本土地家屋調査士会連合会」と名称変更した。(第20回臨時総会決議。法人設立の年月日は昭和42年12月15日) |
昭和43年 (1968) | ● 不動産登記法第17条地図作製モデル作業開始 |
昭和45年 (1970) | ●10月19日、土地家屋調査士法制定20周年記念全国大会(東京都千代田区日比谷公会堂) |
昭和47年 (1972) | ● 不動産調査士という名称は土地家屋調査士法第19条第2項に抵触する。(民事局長回答) |
昭和50年 (1975) | ●6月19日、土地家屋調査士法制定25周年記念式典(東京都港区高輪ホテルパシフィック) |
昭和51年 (1976) | ●3月1日、表示登記の日を「4月1日」と設定 |
昭和53年 (1978) | ●6月23日、土地家屋調査士法一部改正(法律第82号)〔司法書士法の一部を改正する法律附則7項による改正〕 |
昭和54年 (1979) | ●12月18日、土地家屋調査士法一部改正〔第二次改正〕(法律第66号) ・職責の明確化 ・業務内容の付加 ・特認事項及び欠格事由の整備 ・試験制度の整備 ・登録入会手続の一本化 ・土地家屋調査士会に対する注意勧告権の付与 ・連合会に対する建議権の付与 |
昭和55年 (1980) | ●6月6日、土地家屋調査士法制定30周年記念式典(東京都港区高輪ホテルパシフィック) |
昭和56年 (1981) | ●12月22日、土地家屋調査士法制定30周年記念座談会(法務省大会議室) |
昭和58年 (1983) | ●5月20日、土地家屋調査士法一部改正(法律第44号)〔建築士法及び建築基準法の一部を改正する法律附則6項による改正〕 |
昭和60年 (1985) | ●6月28日、土地家屋調査士法一部改正〔司法書士法及び土地家屋調査士法の一部を改正する法律2条による改正〕( 法律第86号) ・連合会への登録事務移譲 ・公共嘱託登記土地家屋調査士協会の制度化 ・罰則規定の整備、強化 |
昭和61年 (1986) | ●1月24日、土地家屋調査士法制定35周年/会館落成記念式典(東京都千代田区ホテルエドモント) |
昭和62年 (1987) | ● 土地家屋調査士倫理綱領制定 |
平成2年 (1990) | ●6月20日、土地家屋調査士制度制定40周年記念式典(東京都港区高輪ホテルパシフィック) |
平成3年 (1991) | ●11月22日、報酬体系変更、改正報酬額表民三第5784号認可 ●12月1日、土地家屋調査士報酬額運用基準施行 |
平成5年 (1993) | ●11月12日、土地家屋調査士法一部改正〔行政手続法の施行に伴う関係法律の整備に関する法律37条による改正〕(法律第89号) |
平成6年 (1994) | ●10月3日、全国土地家屋調査士松本大会(長野県松本市松本市民会館) 土地家屋調査士制度発祥の地碑建立、序幕(長野県松本市ライラック公園) |
平成7年 (1995) | ●1月1日、土地家屋調査士報酬額運用基準施行 ●3月27日、土地家屋調査士の処理件数及び報酬額の報告の廃止(法務省令第14号)、4月1日施行 ●6月19日、土地家屋調査士制度制定45周年記念式典(東京都港区高輪ホテルメリディアンパシフィック東京) |
平成10年 (1998) | ●1月、土地家屋調査士報酬額運用基準発行 ●4月7日、土地家屋調査士の補助者の員数制限規定の廃止(法務省令第17号)、10月1日施行 |
平成11年 (1999) | ● 土地家屋調査士試験問題の公表・持ち帰りが認められる。(平成11年度の土地家屋調査士試験から) ●12月8日、土地家屋調査士法一部改正〔民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律8条による改正〕(法律第151号) ●12月22日、土地家屋調査士法一部改正〔中央省庁等改革関係法施行法318条による改正〕(法律第160号) |
平成12年 (2000) | ●地籍調査事業(外注型)への土地家屋調査士の参画 ●第5次国土調査事業十箇年計画(平成12年5月23日閣議決定) ●6月23日、土地家屋調査士制度制定50周年記念式典(東京都新宿区京王プラザホテル) |
平成13年 (2001) | ●6月8日、土地家屋調査士法一部改正〔弁護士法の一部を改正する法律附則4条による改正〕( 法律第41号) ● 土地家屋調査士制度発祥の地碑移設(長野県松本市総合体育館北隣) |
平成14年 (2002) | ●5月7日、土地家屋調査士法一部改正〔司法書士法及び土地家屋調査士法の一部を改正する法律2・3条・附則13条による改正〕(法律第33号) ・事務所の法人化 ・資格試験制度の整備 ・懲戒手続の整備(官報公告) ・会則記載事項からの報酬に関する事項の削除(平15.8.1施行) ・研修・資格者情報の公開 |
平成15年 (2003) | ●8月1日、日本土地家屋調査士会連合会の民間法人化 ●8月1日、会則記載事項からの報酬に関する事項の削除(8月1日改正法施行) |
平成16年 (2004) | ●6月2日、土地家屋調査士法一部改正〔破産法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律45条による改正〕(法律第76号) ●6月9日、土地家屋調査士法一部改正〔電子公告制度の導入のための商法等の一部を改正する法律11条による改正〕(法律第87号) ●6月18日、土地家屋調査士法一部改正〔不動産登記法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律20条による改正〕(法律第124号) |
平成17年 (2005) | ●4月13日、土地家屋調査士法一部改正〔不動産登記法等の一部を改正する法律3条による改正〕(法律第29号)・筆界特定手続代理関係業務・民間紛争解決手続代理関係業務 ●7月26日、土地家屋調査士法一部改正〔会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律129条による改正〕(法律第87号) |
平成18年 (2006) | ●6月2日、土地家屋調査士法一部改正〔一般社団法人及び一般財団法人に関する法律及び公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律232条による改正〕(法律第50号) ●民間紛争解決手続代理関係業務に係る土地家屋調査士特別研修の開始 |
平成19年 (2007) | ●4月1日、登記特別会計法廃止施行 |
平成20年 (2008) | ●12月1日、土地家屋調査士法施行規則の一部改正〔一般社団法人及び一般財団法人に関する法律及び公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律の施行による改正〕(法務省令第70号) ・ 土地家屋調査士法等違反に関する調査 ・ 公嘱協会の届出、報告及び検査 ・ 公嘱協会に対する懲戒処分の通知 |
平成21年 (2009) | ●土地家屋調査士専門職能継続学習制度(CPD)の開始 |
平成22年 (2010) | ●4月1日、法務局又は地方法務局の長は、土地家屋調査士法等違反に関する調査を土地家屋調査士会に委嘱することができる。(平成22年4月1日施行) ●官民境界基本調査(地籍調査)事業への土地家屋調査士の参画 ●第6次国土調査事業十箇年計画(平成22年5月25日閣議決定) ●6月23日、土地家屋調査士制度制定60周年記念式典(東京都文京区東京ドームホテル) |
平成24年 (2012) | ●6月21日、司法書士法施行規則及び土地家屋調査士法施行規則の一部改正〔住民基本台帳法の一部を改正する法律(平成21年法律第77号)による、外国人住民を住民基本台帳法(昭和42年法律第81号)の適用対象に加える等の改正(平成24年7月9日施行)。〕(法務省令第27号) ・「 出入国管理及び難民認定法及び日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の一部を改正する等の法律」(平成21年法律第79号)によって、新しい在留管理制度が導入されたことに伴う外国人登録制度の廃止。 ・ 土地家屋調査士法施行規則の登録の申請に係る条文中に「外国人登録に関する証明書」との用語が存していることから、所要の改正が行われた。(平成24年7月9日から施行) |
平成26年 (2014) | ●11月27日、空家等対策の推進に関する土地家屋調査士会の参画(自治体との協定の締結、都道府県による連絡協議会構成員、市区町村による協議会構成員、立入調査の委任等) |
平成27年 (2015) | ●10月16日 1 日本土地家屋調査士会連合会特定個人情報の適正な取扱いに関する基本方針の新設。 2 日本土地家屋調査士会連合会特定個人情報取扱規程 (1、2 いずれも平成28 年1 月からのマイナンバー制度が実施されるに当たり、「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)」に基づき新設。) |
平成28年 (2016) | ●筆界特定制度創設10周年記念講演会の開催 |
平成31年 令和元年 (2019) | ●6月12日公布、土地家屋調査士法の一部改正(法律第29号) ・「 使命規定」の新設 ・ 懲戒権者を法務大臣へ ・ 懲戒処分のうち戒告の際の異議申立権等手続保証確立 ・ 懲戒の対象となる事由について除斥期間を設ける ・「一人法人」制の導入 |
令和2年 (2020) | ●8月1日、土地家屋調査士職務規程の施行 ●12月10日、土地家屋調査士研修制度基本要綱の一部改正「連合会が指定する研修」(義務研修)として、令和3年度から「新人研修」及び「年次研修」を指定 |