釧路土地家屋調査士会

釧路市,旧五十嵐家

【目的】

 歴史的な建物の登記・測量をとおして、今後の登記制度を考えるとともに、土地家屋調査士の職能をPRする。
※旧五十嵐家(釧路市富士見 2 丁目 7 番地)は今夏、国の登録有形文化財建造物に正式に登録される見通し。同建造物とは、50年を経過した歴史的建造物のうち、一定の評価を得たものを文化財として登録し、保存・活用しようというもので、平成8年に誕生した文化財登録制度のひとつである。旧五十嵐家は築 70年の民家。木造 2 階建て、約170 ㎡の和洋折衷住宅。「機能的な造り付けの設備を備えた台所を家の中央に配置するなど、道東の住宅では先駆的な試みが見られる」と評価された。また、この建物は釧路市都市景観賞を受賞している。

【事業内容】

  1. 旧五十嵐家について、三次元データを保存
    土地家屋調査士の業界においても利活用の道が検討されているドローンマッピング・レーザースキャナを使用し、地域の歴史的建造物をデータとして保存することにより地域社会に貢献するとともに、土地家屋調査士制度を社会にPRする機会とする。取得した点群データにより建物を立体的に表示することができる。
    このデータは、地震や火災などの災害によって建物が損壊した場合、建物の復元に利用可能である。
  2. 旧五十嵐家について、2 階部分の増築登記を申請。旧五十嵐家は既登記建物だが、2階部分の増築登記が未了のままとなっている。
    この度、登録有形文化財建造物に正式に登録されるのを機に、増築登記をすることが望ましいとのこと。釧路会のプロジェクトとして協力したい。
  3. 上記 2 の建物図面あるいは底地の地積測量図に関連情報の付加について検討
    利用価値の高い関連情報とは何か、関連情報を  付加するためにどのような方法があるか、影響 を及ぼす関連法は何か、などを検討する。
    実際に、図面に関連情報の付加を試みる(登記 所との連携は行わない)。
    ※実施後の措置
    以上の実施結果を新聞紙上で記事として取り上げてもらう。
    関係者にDVD等のメディアとして提供するとともにインターネットで公開する。

【経緯】

1 月 24 日
旧五十嵐家住宅が有形文化財の登録を目指していること、そして、現在2階建であるが登記上は平家建となっており、平家建から2階建への変更登記を希望しているという情報に、当会の事務局経由で当会会長が接した。
3月19日
国の文化審議会が同住宅を有形文化財に登録するよう文部科学相に答申。
7月21日 
当会役員の承諾を得て、当会会長から、登記(増築、滅失)と3D化の着手指示あり。この時点ですでに、建物所有者が実施を希望している旨の連絡を保存会経由で当会にいただいた。
8 月 6・7 日 3Dスキャン作業を実施。
11月12 日 3Dデータ作成完了。
12 月 5 日 
同プロジェクトによる登記完了証と三次元データの贈呈式、および対談。
(会場:釧路センチュリーキャッスルホテル)

【事業経過と結果】

① 事業 1(3D化)と事業 2(増築登記)・・・すべて完了し、関係者に贈呈済。贈呈式は、令和 2年 12 月 5 日に釧路センチュリーキャッスルホ
テ ルにて開催。翌6日付け釧路新聞に記事として掲載。贈呈式につづき、丸尾会長と旧五十嵐家住宅保存の会・金子様との対談を実施。
② 事業 2 の補足 ・・・ 同一敷地内にすでに取り壊された建物が登記されていることがわかり、この建物の滅失登記も合わせて申請した。
③ 事業 3(関連情報付加)・・・広報部で検討した結果、建物図面や地積測量図に対する関連情報付加は実施しなかった。理由は、都道府県や地方自治体が所有する情報(建築・都市計画・防災関連など)のなかには、登記情報と一体化させると有用なものもあるが、土地家屋調査士としてこの情報を付加したとしても、責任の所在が不明であること。もし、業務として情報を付加する場合は、各種法律改正が必要であり、今回の周年事業のなかで検討することに適さないと考えたため。
④ 今後、70 周年記念事業の新聞広告掲載、当会ホ ームページで3Dデータ(点群データを除く)の公開を予定している。

【贈呈式と対談】

(1) 贈呈式
令和2年12月 5 日、登記完了証と三次元データ(USBメモリ)の贈呈式が開催された。
登記完了証が丸尾会長から建物所有者の方(旧五十嵐家住宅保存の会代表)に、三次元データが松田副会長兼日調連理事から保存の会事務局の金子ゆかり様に手渡された。
(2) 対談
贈呈式につづいて、この記念事業を振り返り、丸尾会長と金子様による対談が行われた。

【登記制度について創造されたもの】

登記記録を現況に合わせることの重要性について一定の周知ができたことが成果と思う。
当会で取り組みの対象とした建物(旧五十嵐家住宅)は昨年夏、国の文化審議会から文化財保護法に基づく有形文化財に登録されたが、登録されるに際し、文化審議会から建物の登記記録を現況に合ったものとするよう指導された。
ところが、建物の所有者側で登記記録を調べたところ、釧路地方法務局の窓口において「敷地に複数の建物がありますが、これですか、これですかと言われた」。そのときのことを振り返り、所有者側の方は「正直ギョッといたしました。文化財の申請をするときに、登記簿を付けて下さいと文化庁から言われたのですが、調べてみましたら、敷地内に建物が複数ある。さらに面積も現在の建物と全然ちがう。現在は 2 階建なのに登記簿にはいずれも平家建と書いてある。どうしたものでしょうと正直思いました」と述べていた。
所有者側では、どのように登記手続を行ったらよいか悩んでいましたが、昨年初め、当会に相談があり、結果的に、プロジェクトのなかで増築登記と滅失登記を申請し、無事登記を完了することができた。この経緯は、プロジェクトの式典(登記完了証等の贈呈式)を行い、また、新聞紙上に「調査士業務と式典」について掲載を行い、周知を図った。このことによって、登記記録を現況に合わせることの重要性について、一定の周知ができたものと考える。この点が、この取組における成果(登記制度の必要性の周知)と思う。

所有者側では、どのように登記手続を行ったらよいか悩んでいましたが、昨年初め、当会に相談があり、結果的に、プロジェクトのなかで増築登記と滅失登記を申請し、無事登記を完了することができた。この経緯は、プロジェクトの式典(登記完了証等の贈呈式)を行い、また、新聞紙上に「調査士業務と式典」について掲載を行い、周知を図った。このことによって、登記記録を現況に合わせることの重要性について、一定の周知ができたものと考える。この点が、この取組における成果(登記制度の必要性の周知)と思う。
今回のプロジェクトでもわかったことだが、登記記録を現況に合わせることの重要性についての認識が、一般の方は不十分であり、不動産登記制度についてさらなる周知が必要と感じた。他会の広報活動を参考に、効果的な広報のありかたを探っ て行きたい。