土地家屋調査士制度制定
70周年記念シンポジウム
つながる安心とひろがる未来を考える~令和時代、土地家屋調査士の使命~
- 日時:2020年(令和2年)10月26日(月)午後1時~
- 会場:東京国際フォーラム ホールB7
- 主催:日本土地家屋調査士会連合会
- 共催:全国土地家屋調査士政治連盟
全国公共嘱託登記土地家屋調査士協会連絡協議 - 後援:総務省、国土交通省、法務省
- 総合司会 きたおか まお(フリーアナウンサー)
令和2年10月26日(月)東京国際フォーラムのホールB7に約600人が参集し、新型コロナウイルス感染症拡大予防策が施された中、「つながる安心とひろがる未来を考える~令和時代、土地家屋調査士の使命~」をテーマにして土地家屋調査士制度制定70周年を記念したシンポジウムが開催されました。
開会の辞
小野 伸秋 日調連副会長(土地家屋調査士制度制定70周年記念事業実行委員長)
開会の辞では、実行委員長である小野副会長から、コロナ禍の中での開催について触れるとともに、改めて、メインテーマである「つながる安心とひろがる未来を考える」、サブタイトルの「令和時代、土地家屋調査士の使命」について紹介され、土地家屋調査士の使命として、今何をすべきか、国民生活の安心、安全と未来のまちづくりへどのように寄与すべきかを考えることを目的としている旨の挨拶の後、本シンポジウム終了後には、土地家屋調査士制度の未来が明るいまちづくりの面で貢献する姿を想像してもらえることを期待すると述べ、シンポジウムの開会が宣言されました。
主催者挨拶(共催者紹介)
『今、土地家屋調査士は何をなすべきか!』
國吉 正和 日調連会長
冒頭、日調連國吉会長から、日頃の日調連、関係団体への支援・協力及び記念シンポジウムへの参加に対する謝意の後、主催者代表として自己紹介が行われ、さらに、共催団体代表として全国土地家屋調査士政治連盟椎名勤会長、同じく全国公共嘱託登記土地家屋調査士協会連絡協議会榊原紀夫会長が紹介されました。
続けて、日調連國吉会長から、以下主旨の挨拶がありました。
司法書士法及び土地家屋調査士法の一部を改正する法律が本年8月1日に施行され、第1条が目的規定から使命規定に改正されました。
また、土地家屋調査士法第42条では、懲戒権者が法務局長又は地方法務局長から法務大臣へと変更されました。
これらのことは今日までの先人たちの努力、そして業務処理に対する依頼者からの信頼、将来に向けた土地家屋調査士という資格者への期待とともに資格者としての位置づけがより大きくなり、責任がより明確にされたものと思っています。
私たち土地家屋調査士は、国民の貴重な財産である不動産の権利を明確化することによって明るく住みよい社会維持することを目的する資格者であり、現代社会における人口減少が招くあらゆる社会問題の解決、激増する未曽有の自然災害の復興に対する対策支援への取組、国民及び行政からも信頼できる資格者として様々な問題を克服して社会情勢の変化に対応していかなければならない。
今こそ、我々土地家屋調査士は業務形態の変革に向けて意識と行動を変える時期を迎えたのではないか。
土地家屋調査士は制度制定70周年を迎えました私どもと行政機関、関連士業、関連団体そして市民の皆様とのつながりをキーワードとして記念行事を行っていきます。
記念講演
『揺れ動く時代における専門家』
前最高裁判所長官 寺田 逸郎 氏
70周年という歴史的節目に相応しい大変重要な法改正が昨年ありました。注目は第1条が使命規定に変わるというところです。目的規定から使命規定に置き換えるということは、制度の基盤を直接法律に置くということから離れるということになりますので、すんなり認められるか、あるいはそれがいいのか、議論がありそうでハードルが高いのではないかと感じていました。
それを見事クリアされた関係者の努力はいかばかりかと想像する次第です。その成立過程において法案の提出者は第1条を使命規定に改める主旨を次のように説明しています。「業務内容の拡大により以前にも増して社会において、専門家として重要な役割を果たすようになってきている。」このように皆さんの立場を位置づけることによって、空き家問題、所有者不明土地、相続登記促進等の問題解決に係る職責の重さを強調しています。
業務においては、量よりも質を求める姿勢が明らかになっているのではないかと見ています。強調したいのは、国民生活の安定と向上についての使命が明らかにされたことです。
使命というと非営利的な活動の必要性と結び付けがちであるが、営利を使命と対立して捕らえるまではないと思います。必要なことは長く継続してビジネスとして成立し構築することが重要です。事業分野について、一つ一つの場面において仕事ぶりを模索することが大事です。それこそが使命を持つ専門職の専門家の在り方に相応しいと思います。
討 論
『法改正!土地家屋調査士の使命』
(中央更生保護審査会委員長・元東京高等裁判所長官)
(土地家屋調査士・日調連会長)
(土地家屋調査士・日調連副会長)
~土地家屋調査士法改正の背景について~
鈴木日調連副会長
土地家屋調査士法改正の背景についてお伺いしたいと思います。
倉吉氏
法務省で不動産登記の所管をする課長に就任したばかりの時の話です。松岡元会長が広報部長だった頃、「杭を残して悔いを残さず」のポスターを持ってきた時に私は地味ではないですかと言ったところ、私たちの仕事は境界を確認して境界標を入れていくという地味な努力の積み重ねですと言っておられた。その積み重ねが境界紛争を防ぐことにつながるという説明を受けました。その地道な努力が実って今回使命規定を創設する法案ができるまでに至ったのだと思いました。
國吉日調連会長
土地家屋調査士は長年、土地家屋調査士法の改正をお願いしてきました。その内容は業務に関連する改正であり、不動産登記法第14条地図、筆界特定業務、境界紛争に関連するADR業務等、筆界を取り扱う専門家として、土地家屋調査士法に「筆界」の文言を入れたいというのが元の話だと思います。
~懲戒手続きの適正・合理化~
鈴木日調連副会長
懲戒の処分権者が法務局長又は地方法務局長から法務大臣に変更されましたが、土地家屋調査士にとってどのような影響を及ぼすのでしょうか。
倉吉氏
ADR業務を考えると法務局長が懲戒事由を把握するのは容易とはいえないし、複数の法務局の管轄をまたがっている土地家屋調査士法人も多くなってきました。ですから法務大臣が処分権者になるのが適切であると考えます。
國吉日調連会長
この改正によって、土地家屋調査士個々の業務に影響があるとは思いません。今までどおりしっかりと業務を行うことが大前提であり、除斥期間が7年になりましたが、使命規定の下、きちんと成果を提供することが大事だと思います。
~一人法人~
鈴木日調連副会長
土地家屋調査士法人は共同して設立しなければならないとされていましたが、単独で設立できることになりました。これによって期待できることはありますか。
國吉日調連会長
今まで多くの土地家屋調査士法人は、親子等の二人社員法人でありました。つまり一人亡くなると法人が維持できないということになります。入札、仕事量、広範囲な事業展開、事業承継、信用、社会保険等のメリットがあり、ある程度の法人が新たに設立されるのを期待しています。
倉吉氏
経営判断の選択肢が増えるのは良いのではないか。利用する側としても利用しやすくなるのではないかと思います。
鈴木日調連副会長
連合会としては全員が法人にしてほしいわけではなく、社会が多様化していく中で、多様なニーズに応えるため、利用者や土地家屋調査士の選択肢を増やすことが必要だと考えています。
基調講演
『防災・減災・国土強靭化!!』~まちづくりにおける土地家屋調査士の役割~
内閣総理大臣補佐官 和泉 洋人 氏
地籍調査とか地図というのは、国土の基盤で国家そのものです。我が国で最初に実施した大化の改新に始まり、2番目には太閤検地、3番目には明治の地租改正があり、住民に測量をさせたので精度が粗悪な公図ができてしまった。最後に小泉政権の都市再生街区基本調査が行われ、この時に街区基準点も設置された。
防災・減災・国土強靭化において重要な役割を果たす地図・地籍を取り扱う土地家屋調査士の役割とは何か確認しましょう。過去の大災害の教訓として、伊勢湾台風、阪神淡路大震災、東日本大震災がありました。そこで国土強靭化が新しい概念として示されました。
かつて天災は忘れた頃にやってくるといわれていましたが、今は前の天災が生々しく残っている中で次がやってきます。事前に対策をすれば遥かに被害は少なくなります。それらを踏まえて国土強靭化基本法が成立しました。災害が発生した際の円滑な復旧・復興の前提として、土地の基本的な情報である境界が明確になっていることが重要です。そして今回の法改正によって、専門家としての使命を明らかにする規定が設けられました。改正の主旨に乗っ取って使命を果たしていただけると幸いです。
意見発表
『狭あい道路整備促進の必要性について』
(1)宿本 尚吾 氏(国土交通省住宅局市街地建築課長)
消防や防災上、早急に整備が必要な狭あい道路の解消について、お話しをさせていただきます。
住宅政策の動向について、住宅ストック数は総世帯に対し約16%多く、量的には充足しているので、今後は豊かな生活を営むためにこれらの住宅ストックの耐震化やバリアフリー、適切な幅員の道路が整備されるよう住環境の問題がある建物をいかにして建て替えていくのかが課題となっています。
狭あい道路は災害時に避難路として不十分であり、安全で良好な住環境を形成する上でも大きな課題と考えます。よってこれらの狭あい道路拡幅整備について助成を行って支援しております。
(2)田口 富隆 氏(岡崎市建築部次長)
狭あい道路解消が促進しない理由として、建物は後退した位置に建築するものの後退部分には、所有者が後から門や塀を築造する等により、結果的には道路拡幅に至らない状態でした。このような背景から市街化改善効果が期待できる3地区を選定し、狭あい道路に対する意識や安全に改善できる説明会やアンケート調査を行い、住民の意向把握に努めました。その後、整理をして狭あい道路の拡幅整備に関する条例を制定することができました。今後制度が改善され、全国的に狭あい道路の整備が飛躍的に進むことを期待しています。
(3)米澤 實 氏(土地家屋調査士)
我々は市町からの依頼を受けて道路及び民々境界の確定、分筆登記、工事完了後の地目変更、境界復元作業を行います。
狭あい道路未整備箇所は多く、スピードを上げる必要があります。提案としては自主管理を含む全ての事前協議案件に後退用地を明確にするため道路境界確定協議を義務化することです。全国各地の土地家屋調査士が積極的に取り組むことで狭あい道路整備事業を確実に促進させることができます。
提 言
『法制定!狭あい道路整備促進の可能性について』
参議院議員 豊田 俊郎 氏
狭あい道路の事例集が出来た経緯は、平成31年4月22日の参議院決算委員会において、狭あい道路に関する国会論議として私がこの問題を上げました。そして国土交通省住宅局長が答弁をされたことで始まり、事例集が出来上がるまでに至りました。各自治体が頑張っていても国が把握していない問題があったということです。これらの事実も政治の力があればこそだということを皆様にはご理解いただければと思います。
提案としては、狭あい道路をある一定の条件を付けて道路法による認定道路にしたらどうであろうか。もう一つは国土強靭化のために防災・減災の観点から法律を作っていったらどうかと思います。提言として、狭あい道路の解消に向けた国の予算の一層の充実等を行政に対して発信をしていただきたいと思います。
土地家屋調査士70年宣言
國吉日調連会長
國吉会長が代表して、私たち土地家屋調査士が、国民生活の安定と向上に資する使命遂行のため以下のとおり宣言された。
「土地家屋調査士70年宣言」
土地家屋調査士法は、昭和25年に制定され、今年で70年を迎えました。これまでに培われた実績と社会に対する専門資格者としての職責をより一層明確にするため、土地家屋調査士は、不動産の表示に関する登記及び土地の筆界を明らかにする業務の専門家として、不動産に関する権利の明確化に寄与し、もって国民生活の安定と向上に資することが使命となりました。
この使命を果たすため、土地家屋調査士は、自ら専門分野の知識と技術の向上のため研鑽を積み、国民の信頼に応えるため能動的に行動します。
1.不動産の登記と地図の重要性を広く社会に発信し、その整備と充実に貢献します。
2.国民の安心・安全で豊かな暮らしを守るため、防災・減災・国土強靭化を目指す社会のインフラ整備に貢献します。
3.土地の境界管理の必要性を社会に周知し、土地の境界をめぐる紛争を未然に防ぎます。また、土地の境界をめぐる紛争に対して、筆界特定、ADR、訴訟等の各種手続きの連携を図り、解決に貢献します。
4.既存概念にとらわれることのない、新しい価値観の創造に貢献します。
私たち土地家屋調査士は、国民生活の安定と向上に資する使命遂行のためここに宣言します。
令和2年10月26日
日本土地家屋調査士会連合会
閉会の辞
椎名 勤 全国土地家屋調査政治連盟会長
全国土地家屋調査政治連盟椎名会長から、コロナ禍での参加者への謝意と各登壇者への御礼が述べられた後、このシンポジウムは、日調連を中心に全調政連、全公連の三者が史上初めて連携して実施した旨が述べられ、私たちはこれを契機につながる安心、ひろがる未来を合言葉に土地家屋調査士制度を前へ前へと進めていく所存であり、皆様方にはこれからも変わらぬご支援とご協力をお願いする旨が述べられシンポジウムの閉会が宣言され終了しました。